1on1面談が機能しない理由:部下のモチベーション源を見つけるマラソンランナー的アプローチ
はじめに
毎週、部下と 1on1 をしている。
会社のプロセスとして、30分間、彼らの課題や進捗を聞く。
だが、正直に言うと、これが機能していない時期が長かった。
部下は「特に課題ありません」と答える。進捗も「順調です」と答える。
その後、突然「別の会社への転職を考えています」と言われる。
その時、初めて気づく。1on1 は、形式的なプロセスになっていた。
理由は単純だ。
私は、部下の「本当のモチベーション源」を理解していなかった。
マラソンの世界では、「ペーサー」という役割がある。
レースで、先頭ランナーを導く役割のランナーだ。
優秀なペーサーは、先頭ランナーの走るペースや呼吸を観察し、時に励まし、時に調整を促す。
だが、良くないペーサーは、一定ペースで走り続けるだけ。先頭ランナーが本当に何を必要としているかを理解しない。
マネージャーも同じだ。
「1on1 というプロセスを実行する」のではなく、「部下の本当のモチベーション源を理解し、導く」。
これが、真のリーダーシップだ。
1on1 が機能しない 5つの理由
1. 「課題がないか」という表面的な質問
典型的な 1on1:
- 「最近、課題はありますか?」
- 「進捗はどうですか?」
- 「困っていることはありますか?」
これは、「課題・困りごと」を引き出す質問。
だが、部下の本当のモチベーションは、「課題がない時」にこそ見える。
例えば、優秀なエンジニアが「別の会社に転職した」理由が「課題解決できない」ではなく、「自分の成長が止まった感覚」だったりする。
表面的な質問では、この感覚は引き出せない。
2. マネージャーが「答え」を持っている
部下が悩みを話す → マネージャーが「こうしたらどうか」とアドバイス。
この流れは、短期的には「役に立つ」に見える。
だが、長期的には、部下の「自分で考える力」を奪う。
そして、「このマネージャーに話しても、同じアドバイスが来るだけ」という学習が起きる。
結果、部下は本当のことを話さなくなる。
3. 「モチベーション」の定義が狭い
多くのマネージャーが考えるモチベーション:
- キャリア進化への欲求
- 昇進・昇給への欲求
- プロジェクト成功への欲求
だが、実際のモチベーション源は、人によって全く異なる:
- 「自分のコードが多くの人に使われること」
- 「新しい技術を学ぶこと」
- 「チームメンバーを助けること」
- 「完璧なものを作ること」
- 「ワークライフバランスを保つこと」
- 「リーダーとしての成長」
マネージャーが部下のモチベーション源を勘違いしていると、1on1 は見当違いな方向へ進む。
4. 部下の状態を観察していない
良いペーサーは、先頭ランナーの呼吸や動きから、「今、疲れているな」「今、調子いいな」を読む。
だが、良くないマネージャーは、「毎週同じ質問をする」だけ。
部下が疲弊している時期に「新しいプロジェクトに挑戦しませんか?」と言う。
部下が高いモチベーションにいる時期に「無理しないでね」と言う。
観察がないから、タイミングが狂う。
5. 1on1 の後、何も変わらない
部下が「キャリアについて悩んでいる」と言った。
マネージャーが「そうなんだ。考えておきます」と言った。
1ヶ月後、何も変わらない。
これが何度も繰り返されると、部下は「このマネージャーに話しても無駄」と思う。
マラソンの「ペーサー」から学ぶ:真の 1on1 アプローチ
ペーサーの役割
マラソンのサブ 3(3時間以内)を狙うランナーは、ペーサーを雇う。
ペーサーの仕事:
- 正確なペースを維持する
- ランナーの様子を観察する
- 必要に応じて励ましたり、ペース調整を促したりする
ペーサーが優秀な場合:
- ランナーは信頼して、自分のペースに任せる
- ランナーは集中力を失わない
- ランナーは目標を達成する
ペーサーが良くない場合:
- ランナーは不安になる
- ランナーは余計なエネルギーを使う
- ランナーは目標を達成できない
マネージャーも、まさにペーサーだ。
真の 1on1 の 4つの要素
1. 観察(Observation)
1on1 を始める前に、部下を観察する。
- 最近の進捗
- コードのクオリティ
- ミーティングでの発言
- 表情・雰囲気
そして、1on1 中も観察する。
- どのテーマで目が輝くのか
- どのテーマで息が詰まるのか
- 話す速度は早いか遅いか
- 言葉選びは慎重か大胆か
この観察から、「今、何が起きているのか」を推測する。
2. 質問(Inquiry)
「課題はありますか?」ではなく、より深い質問をする。
例:
- 「最近、どの仕事が楽しかった?」
- 「逆に、イライラした瞬間はあった?」
- 「今のプロジェクト、どう感じてる?」
- 「6ヶ月後、どうなっていたいと思ってる?」
- 「自分の強みって何だと思う?」
開かれた質問(Yes/No で答えられない質問)をする。
部下が「考える」時間を与える。
3. 傾聴(Listening)
部下が話している時、マネージャーは聞く。
アドバイスをしない。
「なるほど」「そうなんだ」だけ。
部下が話し終わるまで、沈黙さえ気にしない。
多くのマネージャーは、ここで「では、こうしたらどうですか?」とアドバイスを入れる。
だが、それは傾聴ではなく、「話を遮った」だけ。
4. 行動(Action)
1on1 で部下が「キャリアについて悩んでいる」と言った。
その場で、マネージャーが何かできることはないかもしれない。
だが、マネージャーは「次の 1on1 までに、キャリアパスについて調べておく」と約束する。
そして、次の 1on1 で「あの件、調べてみたんだけど」と、自分が行動したことを示す。
これが、信頼を作る。
実体験:失敗と学び
ケース 1: 昇進による離職
優秀なエンジニアを、マネージャーに昇進させた。
多くの人は「昇進 = モチベーション向上」と思う。
だが、彼は 3ヶ月後、退職した。
理由を聞くと、「マネージャーの仕事が、自分の強みと合わなかった」。
実は、1on1 で「何が君を動かすのか」を聞いていなかった。
彼のモチベーション源は「完璧なコード設計」「技術的な深さ」だった。
マネージャーの仕事は、「人間関係」「会議」「判断」。
全く異なる。
学び:昇進が全員のモチベーション源ではない。個人の強みを理解することが先。
ケース 2: プロジェクト配置による成長
別のエンジニアは、1on1 で「新しい言語を学びたい」と言った。
その時点では、彼のプロジェクトは「既存システムの保守」。
「新しい言語」とは無関係だった。
だが、3ヶ月後、新しいプロジェクトが立ち上がり、その言語が使われることになった。
私は彼をそのプロジェクトに配置した。
結果、彼のパフォーマンスは 2倍以上になった。
学び:モチベーション源を理解し、それを実現するために、マネージャーができることがある。
実装:真の 1on1 の 3つのステップ
ステップ 1:事前準備(1on1 の前日)
部下について、以下を整理する:
- 最近のパフォーマンス(コード、ミーティング、進捗)
- 最近の様子(表情、発言、行動)
- 前回の 1on1 で言っていたことで、変化はあったか?
- 今の部下に「何が起きているのか」という仮説
ステップ 2:対話(1on1 本番)
最初の 5分:雑談
- 週末何してた?
- 最近、楽しかったことは?
この時点で、部下の「今日の調子」をキャッチ。
次の 20分:深い質問
- 「最近、どの仕事が楽しかった?」
- 「逆に、ストレスを感じたのは?」
- 「今のキャリア、どう考えてる?」
部下が話す。マネージャーは聞く。
最後の 5分:確認
- 「次までに、俺ができることある?」
- 「何か困りごと、サポートできることあれば言ってね」
ステップ 3:フォローアップ(1on1 後)
部下が「新しい技術を学びたい」と言った → プロジェクトで使う案件が出たら、彼に配置
部下が「ワークライフバランスに悩んでいる」と言った → リモートワークの選択肢を提供
1on1 で聞いたことを、実現する行動を取る。
これが、信頼を生む。
Q&A:1on1 面談の現実的な質問
Q:毎週 1on1 をしているが、部下が『特に課題ありません』としか言わない。どうすればいい?
A:それは、部下があなたを信頼していないサイン。または、深い質問をしていないサイン。「課題はありますか」ではなく「最近、楽しかったことは?」と聞いてみて。
Q:部下のモチベーション源を知ることは、会社の都合より優先されるべきか?
A:はい。長期的には、個人のモチベーションを無視した配置は、離職につながる。短期的な効率より、持続可能な人材育成が重要。
Q:1on1 で部下が相談してくれない。どうしたら話してくれるようになるか?
A:まず、あなたが「聞くだけ」の姿勢を示すこと。アドバイスをしない。次に、1on1 以外の場面で、部下を観察し、「最近、コードのクオリティが上がったね」「あのミーティングでの提案、良かったよ」と、具体的なフィードバックを与える。信頼が生まれると、話してくれるようになる。
Q:部下のモチベーション源が『昇進』『昇給』以外の場合、会社として何ができるのか?
A:プロジェクト配置、学習機会提供、技術的チャレンジの提供、など。昇進・昇給だけが全てではない。個人の強みを活かすアサインメントの方が、モチベーション向上につながることが多い。
リーダーが今週実装すべき 3つのステップ
ステップ 1:部下のモチベーション源を特定(今週)
全部下と 1on1 。以下を聞く:
- 「最近、どの仕事が楽しかった?」
- 「今後、どういうキャリアを歩みたい?」
- 「自分の強みって何だと思う?」
それぞれの答えから、「何がこの人を動かすのか」を推測。
記録する。
ステップ 2:「質問と傾聴」の 1on1 へシフト(来週)
従来の「課題共有」から「モチベーション源の理解」へ。
「では、こうしたらどうですか」というアドバイスを、一度、止めてみる。
代わりに「なるほど。で、どうしたいの?」と聞く。
ステップ 3:1on1 で聞いたことを、実現する行動を取る(来週以降)
部下が「新しい技術を学びたい」と言った → 学習機会を探す、プロジェクトを紹介する
部下が「もっと決定権を持ちたい」と言った → 小さな判断権から与えてみる
1on1 で聞いたことが、単なる「聞き流し」にならないようにする。
パフォーマンス支援ツール
1on1 を深める、コーチングスキル本:
GTD仕事術の原点。世界中の経営者が実践している時間管理法。
部下のモチベーション源を理解するため、人間関係構築本:
時間管理の革命的手法。忙しいビジネスマンこそ必読の一冊。
次のステップ
来週は、「部下の離職を予測する:行動データから見える危機信号」について掘り下げます。オーバートレーニング症候群(疲弊)の話もしましたが、実は、離職の予測可能な兆候があります。
まとめ
1on1 面談は、「プロセス」ではなく、「関係構築」だ。
表面的な「課題はありますか」という質問では、部下の本当のモチベーション源は引き出せない。
マラソンのペーサーのように、部下を観察し、深い質問をし、傾聴し、そしてアクションを起こす。
これが、真のリーダーシップだ。
優秀な部下が突然「辞めます」と言うのは、通常、1on1 が機能していなかったから。
その兆候は、3ヶ月前からある。
観察できれば、防げる。
あなたのチームの部下のモチベーション源は、本当に理解できていますか?
今週の 1on1 で、「課題はありますか」ではなく、「最近、どの仕事が楽しかった?」と聞いてみませんか?
「モチベーション源を理解する。それが、部下を失わないリーダーの技術。」
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